1.ダイバーシティと女性活躍
1)ダイバーシティとは何か?
一般的に、ダイバーシティ(Diversity)は「多様性」と訳されていますが、「Diversity & Inclusion」を省略したもので、「多様性の受容」という意味です。
特に、近年ビジネスの世界では、「ダイバーシティ経営」「ダイバーシティ・マネジメント」という言葉が使われ、ダイバーシティが経営課題として位置づけられています。
組織の中の多様性は、年齢、性別、国籍、障害、働き方、価値観など様々あります。ダイバーシティを推進することは、企業のパフォーマンスに影響を与えるとされ、各自の個性を活かした能力を発揮できる風土を醸成していくことが求められています。
引用:ダイバーシティ・トレーニング・ブック(森田ゆり著)P.5より加筆して作成
2) 日本におけるダイバーシティの試金石=女性活躍
ダイバーシティは、もともと、人種のるつぼであるアメリカで推進されていました。
日本で、この言葉が急速に広がり始めたのは、2004年に経済同友会が人事・経営戦略としてダイバーシティを提起したことが、きっかけだと言われています。
日本の企業では、終身雇用を前提とした「日本人」「男性」「正社員」「長時間労働」といった画一的なワークスタイルが中心でした。現在もまだその傾向が残っている企業もあります。
世界的に見ても、女性の活躍が遅れていて、人口の約半分という膨大な人材がいるにも関わらず、必ずしも十分に活用されていないのが現状です。2011年には、米国ヒラリー・クリントン国務長官が、2012年にはIMF(国際通貨基金)ラガルド専務が、日本女性の労働力率が上昇すれば、GDPが上昇すると発言し、海外からも経済成長の推進力として注目が集まりました。
最も取り組みやすい「女性の活躍推進」は、ダイバーシティ・マネジメントを進める上での「試金石」と言われています。
3)企業経営にダイバーシティ、女性活躍推進が求められる背景
日本でダイバーシティ、女性活躍の重要性が高まっている背景はいくつかありますが、大きく2つにまとめます。
①人口の減少による人材の量的、質的な確保
喫緊かつ最大の課題と捉えられているのが、少子高齢化による労働力不足の急激な減少です。これまでの「日本人」「男性」だけでは、人材確保が困難となることが予想され、人材が足りないために事業規模を縮小せざるを得ないことも起こってきています。
②国内市場の喚起と国際競争力強化のためのイノベーション
グローバル化が進み、新興国の台頭が激しい中で、日本企業の経営環境は厳しさを増しています。また、国内は、モノやサービスが溢れている現代、消費者の生活の変化と共に、ニーズも多様化しています。
グローバル市場でも、国内市場でも、変化が激しく、多様化したニーズを敏感に感知し、潜在需要を掘り起こしていくことが、企業の生き残りに重要となっているのです。
TOTOの「きれい除菌水」、キリンビールの「キリンフリー」などは女性が活躍した有名なケースです。
4)ダイバーシティ推進による経営効果
ダイバーシティ、女性活躍推進は、企業に大きく分けると以下の4つのような経営効果をもたらすといわれています。
②女性の視点・センスを活かした「プロセスイノベーション(開発、製造、販売の為の手段の開発、改良)」
③外的評価の向上により人材確保が優位になる(ダイバーシティ100選、なでしこ銘柄、均等・両立推進企業表彰など)
④モチベーションの向上など「職場内の効果」
データ上でも、女性役員比率が高い企業の方がROE、ROS、ROICなどの経営指標が良い傾向(下図)や、日本企業でも女性の活躍推進に取り組んでいる企業(均等推進企業表彰企業)の方が、株式パフォーマンスがTOPIX平均を上回る水準で安定して上昇する傾向があるといわれています。
また、育児介護支援や柔軟な職場環境の推進に取り組む企業は、何もしない企業に比べ、粗利率が2倍以上高いとも言われています。
出典:平成24年5月22日付け女性の活躍による経済活性化を推進する関係閣僚会議 経済産業大臣配付資
資料:http://www.gender.go.jp/kaigi/kento/mieruka/siryo/pdf/m01-03-3-3.pdf
しかし、何事にもメリット、デメリットがあるように、ダイバーシティ(多様性)が推進されることによるデメリットもあります。
例えば、
①マネジメントが煩雑になる
②多様な意見がでるので、軋轢、衝突、摩擦、対立などが起こりやすい
③意思決定が遅くなる
④環境整備等コストがかかる
などです。
「やりにくい」とダイバーシティ、女性活躍推進の責任で終わるのではなく、デメリットを乗り越えて、いかに個々の力を活かしてこそ、デメリットの先のメリットを享受できるといえるでしょう。
5)女性活躍の現状と課題
このように、経営戦略として進められているダイバーシティですが、今の日本の状況はどうなのでしょうか? 現状と、課題を女性の活躍にスポットを当てて、みていきます。
①現状:進んでいない女性活躍
■女性就業率は上昇傾向だが、依然として改善の余地
総務省「労働力調査(基本集計)」によると,平成26年の女性の労働力人口は2,824万人,労働力率は49.2%となっています。女性の年齢階級別労働力率について昭和50年からの変化を見ると,現在も「M字カーブ」を描いているものの、そのカーブは以前に比べて浅くなってきています。
出典:内閣府 男女共同参画局 男女共同参画白書 平成27年版(http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h27/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html)
M字カーブは浅くなり、就業率は上昇傾向にありますが、その雇用形態は、派遣社員のような非正規雇用の割合が多くなっています。男女とも、非正規雇用者の割合が増える傾向にありますが、特に女性の割合が高く、昭和60年の32.1%から平成26年には56.7%を占めるに至っています。
■女性の活躍が遅れている
内閣府 男女共同参画局 男女共同参画白書 平成25年版によると、日本のHDI(人間開発指数)は169か国中11位、GII(ジェンダー不平等指数)は138か国中12位、GGI(ジェンダーギャップ指数)は134か国中94位となっています。
HDI,GIIの順位が高く、GGIの順位が低いということは、教育、労働参加は進んでいますが、政治・経済面で男性に比べ女性の活躍が進んでいないことを意味しています。
また、就業者と管理的就業従事者における女性の割合についても、日本は就業者に占める女性の割合は43%と諸外国と比べて遜色ないにも関わらず、管理的職業従事者、つまり女性管理職の割合は11.3%とかなり低いことが分かります。
出典:内閣府 男女共同参画局 男女共同参画白書 平成27年版より
所定内給与額でも、長期的にみると縮小傾向にはありますが、男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性の給与水準は72.2と依然として差があります。
②課題:なぜ日本では女性が活躍できないのでしょう?
では、女性の活躍はなぜ進まないのでしょうか?その課題を3つの側面からみていきます。
女性の就業継続が困難な要因
固定的な役割分担意識が残っていて、家庭責任が大きい
根強く残る固定的な性的役割分担(いわゆる、男は外、女は内)から、日本男性の家事・育児時間は諸外国と比べて少なく、その為、家庭での負担が大きい女性は活躍を望まない傾向にあります。
下のグラフは、6歳未満の子供を持つ夫の1日当たりの家事・育児関連時間ですが、このグラフを見ても、先進国中最低の水準であることが分かります。
企業側も、女性に対してのみ「家庭責任を考慮する必要がある」と考え、女性の活躍を推進する上での問題だとする企業も少なくありません。
夫の家事・育児時間が、様々な理由で少ないことが、女性の活躍推進だけでなく少子化にも大きな影響を及ぼしているといわれています。
出典:内閣府 少子化対策 「すぐ分かる少子化に関するデータ」より
Eurostat “How Europeans Spend Their Time Everyday Life of Women and Men”(2004),
Bureau of Labor Statistics of the U.S. ”American Time Use Survey”(2013) 及び
総務省「社会生活基本調査」(平成23年)より内閣府作成 を引用。
・女性に不利な労働慣行が残っている
恒常的な長時間労働、時間当たりの生産性向上に対する意識の不足、両立支援制度を利用しにくい職場風土、全国的な転勤、長期雇用など男性を前提とした従来型の人事・業務慣行が残っている企業も多いのが現状です。そのため、ライフイベントなど事情を抱える女性を排除する方向に働きがちです。
・公平公正・均等なマネジメントができていない
男女均等待遇、公平な人事評価がなされていないために、労働意欲や自己啓発意欲を低下させていると言われています。
・ロールモデルが少ない
先輩社員が少ないことで、キャリアイメージが描きにくいことも、意欲の低下を招いていると考えられている。
・子育てサービスの不足
「保育園落ちた日本死ね」が話題となって注目された、保育園不足による待機児童問題や、延長保育、休日保育、病児・病後児保育等の子育て支援サービスがまだまだ不足しています。
意欲はあっても、現実的に預け先が無く、出産後の就業が困難となるケースも都市部などにはあります。
■非正規雇用・一般職/総合職など階層による要因
いったん仕事を離れてしまうと、非正規雇用でしか門戸が開かれていないため、女性の雇用は増えているものの、非正規雇用割合が約半数を超えています。
また、フルタイム・残業が前提の働き方が前提では正規雇用は選びにくい状況があるのも非正規雇用が多い理由の一つです。また、「総合職/一般職」といったコース別の人事制度においても、女性は一般職に偏っています。
■ 企業の女性人材活用・女性管理職の課題
・企業が女性の育成・活用に消極的
女性の平均勤続年数の短さを理由に、女性の育成・活用に消極的で、採用の段階から、敬遠する傾向にあります(統計的差別)。また、女性管理職への登用も女性が少ない、女性には無理、女性自身が望んでいないといった理由により消極的である傾向もみられます。
企業にとって、「女性管理職を増加させる」には大きな意味があります。単に「女性活躍なのだから・・」などと思っていませんか?
実はこの女性管理職を課題とすることが、ダイバーシティ(女性活躍)において、とても重要なのです。
今の現状、そして女性管理職への課題を、企業からと女性からの視点で考えてみましょう。
より詳細なことは女性管理職の課題と悩み ~企業と女性の視点から にて一読ください。
・計画的なキャリア開発が進んでいない
上位の管理職、意思決定層に登用する際に重視される「複線型キャリアパス」を経験していない女性が多いです。また、女性自身も中長期的なキャリアイメージを描かないことが多く、管理職などの昇進に積極的ではない傾向があります。
・取組みを経営効果にうまくつなげられていない
経営効果が短期的には目に見える形で表れにくいため、企業側に積極的に進めようというインセンティブが働きにくいことも、女性の活躍推進に消極的な要因です。また、画一的な同質集団の方がマネジメントしやすいため、管理職層が負担感を感じ、進んでいないという現状もあります。
2.女性活躍推進法
1)女性活躍推進法とは
2015 年の女性活躍推進法(正式には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)が成立されました。
この法律は、10年の時限立法として、2016年4月から施行され、労働者301人以上の企業(国、自治体、学校、病院も含む)に対して、女性活躍に関する数値目標を含めた自主行動計画の策定・ 公表を義務づけています(従業員300人以下の事業主は、努力義務)。
また、行動計画の届出を行い、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良な企業については、申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができます。認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マーク(えるぼし)を商品などに付することができます。認定には、評価項目を満たす項目数に応じて3段階に分かれています。
なお、女性活躍推進法に関する情報は、労働省 女性活躍推進法 特集ページにまとめられています。
2)背景と目的
これまでの、女性の社会進出や働く女性の増加を受けて、以下のような法整備等が進んできました。
西暦 | 事例 |
---|---|
1972年 | 勤労婦人福祉法施行 |
1986年 | 男女雇用機会均等法施行 |
1992年 | 育児休業法施行(1995年 育児・介護休業法施行) |
1999年 | 男女共同参画社会基本法施行 |
2003年 | 少子化社会対策基本法施行 |
2005年 | 次世代育成支援対策推進法施行(2008年 改正) |
2016年 | 女性活躍推進法「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」施行 |
先にも触れましたが、日本における女性の活躍推進を求める背景には、少子高齢化に伴い労働者不足の加速化が予想され、女性の潜在的能力の活用が求められてきたことや、産業構造の変化により多様な人材を活用していこうという機運が高まってきたことなどが挙げられます。
安倍内閣は、2013年に「日本再興戦略」を掲げ、女性の活躍推進を最重要課題の1 つとして取組みを進めてきました。アベノミクスの3本の矢の一つで、「すべての女性が輝く社会づくり」の要となる法律です。
3)自主行動計画策定までの流れ
自主行動計画策定の流れは以下の4ステップです。
ステップ1:4つの項目で自社の状況を把握し、課題分析を行う
②男女の平均勤続年数の差 ・・・ 男女の平均継続勤続年数の差異
③平均残業時間数 ・・・ 労働者の核月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況
④管理職に占める女性の割合・・・ 管理職に占める女性労働者の割合
女性活躍に関わる自社の状況を把握して、女性の活躍を推進する上で何が課題となっているのか、分析をおこなうステップです。
把握することが必須のこの4項目(基礎項目)には、「女性は採用しているのか」「男性は長く働き続けられるのに、女性は早期に辞めていないか」「長時間労働になっていないか」「女性が育成されて管理職として登用されているのか」、つまり「採用→定着→育成」により女性が育っているか、そして影響力の大きい労働時間の状況も把握するという意図があります。
例えば、女性従業員が7割を占めるのにも関わらず、女性管理職の割合は2%しかない、という企業は、女性管理職の割合が低いこと(項目④)が課題となります。
ステップ2:行動計画の策定と社内外への公表
課題に基づいて行動計画を立てます。行動計画には、①計画期間、②数値目標、③取り組み内容、④取り組みの実施時期を盛り込みます。ステップ1で把握した課題で最も大きな課題だと考えられるものから数値目標を1つ以上設定し、計画期間内の達成を目指します。
数値目標の例としては、
・採用者に占める女性比率を●%以上にする
・男女の勤続年数の差を●年以下にする
・従業員全体の残業時間を月平均●時間以内とする
・管理職に占める女性の割合を●%以上とする
・営業職で働く女性の比率を●割以上にする
女性活躍推進法は10年の時限立法です。3年や5年など取組み期間を区切り、進捗をみるのが望ましいです。
また、策定した行動計画は、社内に周知するだけでなく、社外への公表も行います。外部への公表は、自社のホームページへの掲載や、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」に掲載することもできます。
外部への公表を通して、自社の取組みを就職活動中の学生や、消費者などに対してアピールすることができます。
ステップ3:都道府県の労働局へ行動計画策定届を出す
行動計画を策定したら、策定した旨をに記載し、等道府県労働局に届け出ます。労働局に届けるのは、行動計画そのものではなく、行動計画を作成したという届け出「一般事業主行動計画策定・変更届」です。
ステップ4:実施と効果測定
ステップ2で策定した行動計画に従って施策を実施します。定期的にその実施状況や数値目標の達成状況をチェックし、新たな課題が見つかれば、再度ステップ1からこの取り組みを繰り返し、改善していくことが求められます。
4)「202030」(にいまるにいまるさんまる)に向けて
「202030(にいまるにいまるさんまる)」=2020年30%目標は、2003 年6 月に男女共同参画推進本部において、
「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくも30%程度とする」
と示されました。
指導的地位とは、①議会議員 ②法人・団体等における課長相当職以上の者、③専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者と定義されています。
女性活躍推進法で掲げる目標としては、自社の状況に合った目標を設定すれば良いことになっています。
しかし、米ハーバード大学ビジネススクールのロザベス・モス・カンター教授の「黄金の3割」という理論によると、構成人員の30%を少数派が占めると、意思決定に影響力を持つようになるとされています。
会社などの意思決定の場では、様々な立場の人々が参画し、活発な議論が行われなければなりません。
女性もテーブルにつき、ディスカッションに参加しなければならないのです。そのためには、ある一定割合の女性の参画が必要であるということなのです。
3.企業で女性活躍推の取組み。進めるためにすべきこととその事例
1)女性の活躍を推進するためのポイント
企業は、法定を上回る育児休業期間など両立支援策を整備し、就業継続を支援することに力を入れてきました。しかし、単に女性の数を増やし、両立支援策を導入するだけでは不十分です。女性を含め組織のすべての人の力を引き出し、組織の力に変えるところまでが求められています。
女性活躍を推進するには、次の2点がポイントとなります。
1.ジェンダーバイアス(男女に関する偏見)をなくし、男女差が機会提供や処遇の差別につながらない「フェアな環境」を整備すること2.男女問わず、育児や介護といったライフイベントに配慮しながら、働きやすさと働きがいの両方を高めること
この2点のポイントを両輪にして、性別にとらわれず、働きがいのある、働きやすい環境づくりをおこなうことが、ダイバーシティを推進するために求められています。
2)進める際の留意点
女性活躍推進は、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action) のサイクル(PDCAサイクル)を回し、進めていくことが必要になります。上述「2.女性活躍推進法」の「3」自主行動計画策定の流れ」もその流れになっています。
その中で、取組みを進めるポイントについて、経済産業省「ダイバーシティ2.0検討会-報告書」の中に「行動ガイドライン」としてまとめられています。女性活躍推進の取組みはダイバーシティ推進の一環であり、アクションは同様ですので、抜粋して紹介します。
実践のための7つのアクション
①経営戦略への組み込み
経営トップが、ダイバーシティが経営戦略に不可欠であること(ダイバーシティ・ポリシー)を明確に
し、KPI・ロードマップを策定するとともに、自らの責任で取組をリードする。
②推進体制の構築
ダイバーシティの取組を全社的・継続的に進めるために、推進体制を構築し、経営トップが実行に責任を持つ。
③ガバナンスの改革
構成員の多様性の確保により取締役会の監督機能を高め、取締役会がダイバーシティ経営の取組を適切に監督する。
④全社的な環境・ルールの整備
属性に関わらず活躍できる人事制度の見直し、働き方改革を実行する。
⑤管理職の行動・意識改革
従業員の多様性を活かせるマネージャー(管理職・基幹職)を育成する。
⑥従業員の行動・意識改革
多様なキャリアパスを構築し、従業員一人ひとりが自律的に行動できるよう、キャリアオーナーシップを育成する。
⑦労働市場・資本市場への情報開示と対話
一貫した人材戦略を策定・実行し、その内容・成果を効果的に労働市場に発信する。投資家に対して、企業価値向上に繋がるダイバーシティの方針・取組を適切な媒体を通じ積極的に発信し、対話を行う。
2)取組みの方法(導入施策の例)
取組みの方法には、大きく分けて①制度改革 ②働き方の見直し ③意識改革・育成があります。自社の状況に応じて、「働きやすさ」 と 「働きがい(均等均衡)」の両方のバランスを考慮して、決めていきます。
まずは、スピード感をもって出来る施策、コストが低く効果が高い施策などから優先的に行うと、効果も実感しやすく、周囲の理解も得やすいです。
施策は、女性自身だけの問題として捉えるのではなく、男性の意識、特に管理職の意識や、長時間労働を前提とした働き方など、変えていく必要があります。そのことが、今後、増えるであろう介護を抱える男性が働きやすい環境にもつながるのです。
分類 | 主な内容 |
---|---|
制度改革・施設 | 産前産後休業、育児休業/介護休業/子供の看護休暇/職場復帰プログラム/保活コンシェルジュ/早期復帰支援制度/事業所内託児施設/再雇用制度?パート社員や契約社員の正社員化/中途採用/配偶者の転勤時の帯同転勤/同行休職制度 |
働き方の見直し | 短時間勤務制度/フレックスタイム制度/裁量労働制度/転勤配慮、地域限定正社員など多様な正社員/男性を含めたワークライフバランスの推進/男性の育児参画促進/長時間労働の削減/在宅勤務(テレワーク)/朝型勤務/ペア体制等によるカバー体制の構築 |
意識改革・育成 | 人事評価制度の見直し/各種研修(育休復帰研修、女性キャリア支援研修、リーダー育成研修等)/メンター制度/講演会/経営トップによる女性の昇進状況のモニタリング/様々なロールモデルのキャリアパスの情報共有/男性主体の職場への積極配置/将来の女性幹部候補の育成プログラムの実施/男性管理職へのマネジメント教育/全従業員へのワークライフバランスの研修 |
3)取組み企業事例
①従業員数1000人以上
■カルビー株式会社(所在地:東京都千代田区)
企業情報
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | 菓子・食品の製造・販売 |
従業員数 | 3728人(連結/2016年3月31日現在) |
URL | http://www.calbee.co.jp/ |
取組み内容(抜粋)
・メンター制度
・キャリア支援講座
・女性管理職交流
・ダイバーシティフォーラム
・イクボス宣言
取組み成果
・2010年4月 女性管理職比率 5.9%→ 2016年4月 22.1% (2020年には30%を目標)
育児時短中の執行役員や女性工場長も誕生し、話題になりました。
・発売20年で30億円だったフルーツグラノーラを2年で100億の市場まで成長させ、日経WOMANの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」で、カルビーフルグラ事業部事業部長の藤原かおり氏がベストマーケッター賞を受賞。
・女性管理職の増加とともに売上高が右肩上がり、15年4-9月の営業利益は128億円と同期として過去最高に。連結売上高も10年から毎年100億円ずつ売上を伸ばし15年3月期には2221億円、16年3月期は2461億円。
・「なでしこ銘柄」に3年連続選定
※カルビー株式会社ホームページ、日経ビジネスオンラインより
■SCSK株式会社(所在地:東京都江東区)
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | 情報通信業、システム開発、ITインフラ構築、ITマネジメントなど |
従業員数 | 約7,500人(うち女性 約1,300人) |
女性管理職比率 | 課長級 7.9%、部長級 2.2%、役員 3.0% |
URL | http://www.scsk.jp/ |
取組み経緯
2006年当時、約7割の女性社員が、出産一歩手前(30代前半)までに離転職。大半が離職する事態は、多額の投資コストの逸失という危機感。根本的課題は長時間労働体質にある
取組み内容(抜粋)
・若手女性社員向け「キャリア支援プログラム」
・出産・育児期の社員向け「職場復帰支援プログラム」
・有給100%消化、平均月間残業時間20時間未満
・1人で1つの仕事→2人で2つの仕事
・2018年に女性ライン管理職を100名登用を数値目標に「養成プログラム」「支援プログラム」
取組み成果
・女性入社10年後離職率約7割⇒約3割
・ 男女を通じ心身の健康確保が図られることにより、従業員全体の向上意欲・貢献意欲が向上。
・ 残業の大幅削減(約25%減)/ 有休取得日数の大幅増(約5割増)(2011年度~2014年度)
・ 利益の大幅増(約6割増)を達成
※厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ リーディングカンパニーの取組事例より
■大垣共立銀行(所在地:岐阜県大垣市)
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | 地方銀行 |
従業員数 | 2,910人(男女比 52%:48%) |
URL | http://www.okb.co.jp/ |
取組み内容(抜粋)
・コース転換制度(一般職から総合職、総合職から一般職に転換可)
・キャリア転換制度(正社員からパートタイマーの後、再度正社員へ転換可)
・「L’s プロジェクト」による商品開発活動
取組み成果
・女性専用ローンの開発、女性のための会員制サービス「L’s クラブ」等女性向け商品・サービスの拡充
・主任以上へキャリアを伸ばした女性行員 2012 年の 253 人から、2015 年には 291 人まで増加
②従業員数500人以上~1000人未満
■井村屋グループ 株式会社 (所在地:三重県津市)
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | 菓子、食品、デイリーチルド、加温、冷菓、冷凍菓子、スイーツなどの製造・販売 |
従業員数 | 933 名(男性 659 名 女性 274 名) |
URL | http://www.imuraya-group.com/ |
取り組み内容(抜粋)
・女性だけのキャリアアップ研修(1泊2日の研修 延べ100人に)
・なでしこA塾(トップと女性管理職の懇談会)
・各職場単位でのA塾を実施
・ワークライフバランス推進(男性も育児参加できる環境づくり)
・トップがサンタに扮して託児所へプレゼントを配布→協育への率先垂範
・2017計画 経営者によるモーニングカレッジ開催
取組み成果
・育児休業後の復職率 100%
・女性管理職は 4 年間で 3 倍に!
・女性役員は、13 人中4人
・内閣府特命担当大臣より「子どもと家族・ 若者応援団表彰」受賞(2013年)
・「日本創生のための将 来世代応援知事同盟 最優秀子育て応援企業賞」「内閣府特 命担当大臣 女性が輝く先進企業表彰」(2015年)
■オタフクホールディングス株式会社(広島県広島市)
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | お好みソースなど製造のオタフクソースを含むお多福グループの事業企画立案。各事業会社の統括管理 |
従業員数 | 553 名(男性 364 名 女性 189 名) グループ会社含む |
URL | http://www.otafuku.co.jp/index.html |
取り組み内容(抜粋)
・時間外労働削減(実態の見える化、共有、好事例の共有)
・育児短時間勤務のバリエーション追加
・ワークショップ開催=社員が主体的に環境を作る(①女性 ②若手 ③高齢者)
・人材開発会議(育成計画、タレントマネジメント)
取組み成果
・「子育てサポート企業」 (くるみん)の認定(2007年)
・女性活躍推進法に基づく、「えるぼし」の二段階目の認定(2016年)
③従業員数500人未満
■ヒューリック 株式会社(所在地:東京都中央区)
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | 不動産の所有・賃貸・売買ならびに仲介業務 |
従業員数 | 149名(単体)(男性 109 名 女性 40 名) |
URL | http://www.hulic.co.jp/ |
取り組み内容(抜粋)
・社長アンケート(年 2 回) 2006 年~
・社長と若手社員の定期的な意見交換会 2007 年~
・ 「女性活躍推進プロジェクトチーム」 の発足 2010 年~
・事業所内保育園の開設
取組み成果
・新卒採用での女性応募者が3倍に
・新卒採用者の3年以内離職者0%を維持
・女性の役職率(係長クラス)や管理職率のアップ
・ダイバーシティ経営企業100選(2015年)
■株式会社日本レーザー(東京都新宿区)
項目 | 内容 |
---|---|
事業内容 | レーザー・光学製品輸入販売および自社ブランド製品開発販売 |
従業員数 | 49名 |
URL: | http://www.japanlaser.co.jp/ |
取り組み内容
・在宅勤務
・フレックス勤務等の制度
・研修、意識改革
・ダブル・アサインメントとマルチ・タスクシステム
取組み成果
・女性の幹部比率 23%,管理職比率 40%
・男性も含めた約10年間 自己都合での退職が「0」
・ダイバーシティ経営企業100選(2013年)
・第3回ホワイト企業大賞(2017年)
参考書籍、資料
・実践ダイバーシティマネジメント リクルート HCソリューショングループ
・ダイバーシティと女性活躍推進 経済産業省
・女性活躍の教科書 麓 幸子氏/日経BPヒット総合研究所 編
・ダイバーシティ・トレーニング・ブック 森田ゆり著 解放出版社
・ダイバーシティ 2.0 検討会報告書 ~競争戦略としてのダイバーシティの実践に向けて~ 経済産業省
・中小企業の成長のための女性活躍推進 -企業の取組み事例集- 平成28年 厚生労働省